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見る見る癇癪かんしやくを起しさうになつた練吉は、その時ふと或ることを思ひ出して黙つた。
「畜生、おぼえていろ。」
「うちへもかね」と訊いて置きながら、その自家うちへ寄つて行けとも云はない。房一はふと庄谷の眼尻が人並より下つて、そこが特長のある皺になつているのを認めた。その皺の奥から時々庄谷の眼がこちらの顔を撫でるやうに見ていた。さつきから何度も微笑したやうに見えたのは、この皺のせいかもしれない。
と、大声で訊いた。
その粗暴な外見とは反対に、徳次はさういふ血生臭ちなまぐさいことが嫌ひだつた。そして、人並外れた敏感さを示すのであつた。今もそれで、彼はいかにも心外げな様子を、その無意識な仕草の中に現していた。
――「おれみたいな息子ができるとは、全くどうかと思ふよ」
房一はその時診察用の椅子に腰を下して、ゆつくりと煙草をふかしながら、何気ない風で男の様子に目をつけていた。彼は男の要求する意味を悟つた。たゞ治療をしろ、他のことは見て見ぬ振りをしてくれ、まして他言は無用だ、といふ意味だつた。
「お前、往診に出てた?」
「先代がぽつくり死にましてね。おかげでこんな所へ引つこむやうになつてしまつたんですが」
急いであたりさはりのない返事をすると、今泉はもう隣りの人の方を向いて挨拶をした。
小谷は疳高い声で云つた。
道平は顎髯を剃り落してしまつていた。